スタッフインタビュー

異文化体験を舞台でシェア!成長物語で振り返る"大切なもの"とは


プロジェクトマネージャー 豊田真里

今夏から関東・関西・中部につづいて九州公演も加わり、毎年進化しつづけているYTJオリジナルミュージカル「WORLD MUSIC」。そのプロジェクトマネージャーを務めている豊田真里さんにお話を伺いました。

―まず、簡単なプロフィールを教えてください。

6~21歳までの約15年間クラシックバレエに没頭しました。その後、ホットヨガスタジオでインストラクターやカルチャー教室でバレエの講師をしながら、2015年にアルバイトスタッフとしてYTJで働き始め、翌年フルタイムスタッフになりました。

YTJを知ったキッカケは、家から徒歩10分ぐらいのところにYTJの中部本部ができるという広告が目に留まって…。バレエもダンスも歌も英語も学べると知り「全部できる、すごいなここ!」とまず衝撃を受けました。関東・関西にスタジオがたくさんあって、所属している子供たちの人数にもビックリしました。ホームページをみると、パートナーシップ教育をおこなっていることに、さらに衝撃をうけて(笑)。驚きと、わくわくでいっぱいでした。

クラシックバレエは、師弟関係が深く、先生が教えることは絶対の世界。でも、YTJの教育はパートナーシップを大切にしていて、子どもたちとは常に”対等”の関係でした。メンバーの名前も「〇〇さん」と呼び、子ども扱いをせず、舞台に立つ人間として尊敬し妥協もしない。エンターテインメント活動をするうえで、いまできる最大限を発揮することを大切にしていますよね。YTJを知って「こういう考え方があるんだ!」と驚きました。

そして面接の際に、スタッフの方が「YTJは、真っ白なキャンバスに絵の具でカラフルな色をつけていきたい。カラフルというのは、子どもたちの個性のこと。自由に色をつけて作品をつくりたい」と仰られていたのが、とても素敵だったんです。バレエの古典作品の振付はほぼ決まっていて、自分オリジナルの ”白鳥の湖” 等を創るという文化はなく…バレエ一筋だった自分自身とは真逆の考えだったのですが、とにかく「面白そう!」と感じました。

それからすぐに入社がきまって、翌日には直前リハーサルのレッスンを見学しました。一生懸命英語で歌って、テキパキと動いて、挨拶も返事も活気があり、感心してしまいました。 本当にメンバーのエネルギーが凄くて、、これでは飲み込まれると思い、私も必死に準備をして、初レッスンに挑んだことを今でも鮮明に覚えています。


―YTJとの出会いは、豊田さんにとって驚きの連続だったんですね!いまはどのような業務をされていますか?

入社してからずっと中部エリアで勤務していますが、役職としてはスタジオマネージャー、エリアマネージャーを経て、現在は西エリアの統括マネージャーを担当しています。主にスタジオスタッフと経営陣のパイプ役のような立場として、ルールや組織作りをおこなっています。組織運営を理解しながらも、メンバーからの意見や現場がやりたいことや困っていることを救い上げて折衷案を作り、現場で実現できるよう動いています。


―プロジェクトマネージャーとしての仕事は?

抽象的な表現になりますが、たくさんの人に感動をしてもらうために、多岐にわたる仕事をしています。例えば「WORLD MUSIC」はオリジナルミュージカルなので、音楽制作をしてもらっている業者さんとのやりとり、演出家や歌唱指導、振付スタッフはじめ現場スタッフとの打ち合わせなど。オリジナルグッズの制作もしています。
すべては、メンバーには出演してよかったな、保護者には、子どもたちが頑張っているな、成長しているなと…。また、観客の皆さんにとってWORLD MUSICが、原動力になったら良いなという思いで業務をしています。


―「WORLD MUSIC」のストーリーを簡単に教えてください。

小学6年生のカイトが、音楽とダンスのウェブサイト「WORLD MUSIC」を制作します。 ある時、妹のハナ、はとこのエルマーと一緒にパソコンで「WORLD MUSIC」の動画を見ていると、カイトが持っている不思議な石の力でパソコンの世界に入り込んでしまいます。そこでアイラとスージーに出会い、世界を旅するのですが、突然5人は電脳世界に閉じ込められてしまうんです。現実に戻るためには、5人それぞれが大事にしていることをパスワードとして答えなければ…5人の運命は果たして…?といったお話です。


―そのストーリーのもととなる、作品コンセプトは?

コンセプトとしては様々な要素がありますが、一番はファミリーミュージカルであること。5人のキャラクターが登場しますが、ひとりひとりにメッセージが込められています。

カイトだったら、サイトを制作できるので、周りからは「天才」といわれている小学校6年生。本人もその才能は自覚はしているけれど「大切なものはなに?」ときかれると答えられない。でも、仲間との出会いや経験を通じて、成長していきます。

アイラはお金持ちのお嬢様で、周りから見ると何一つ不自由なしに見えますが、本人は愛情不足と感じながら育っています。その姿をみたときに、子どもを持つ親の目線でみると「家族間でコミュニケーションとれてるかな?」「子どもとの時間を大事にしなきゃ!」と再認識するキッカケになるかもしれません。

この2人のように他のハナ、エルマー、スージーにもそれぞれに個性があって。その個性を小学生メンバーはもちろん、親世代、その上の世代にも感じてもらえるようなメッセージ性のあるものとして作りたかった。

それからタイトルどおり、世界の音楽やダンスを体感できるミュージカルになっているので、異文化にふれる楽しさを観客、出演者に伝えたい。異文化に触れるといろんな気づきがあるじゃないですか。多様性を尊重して色々なことに気づき、思いやりをもって、皆で一つの事を成し遂げてほしいという思いも込められています。


―今年で上演6年目となる「WORLD MUSIC」。これまでの上演についてや、今年新しく変わることがあれば教えてください。

2016年が初演、作品としてはレビューショーに近いものでした。セリフもほとんどなくダンスメインでしたね。上演エリアも、関西関東のみ。2017年頃から少しずつストーリー性を取り入れて、2018年には関東・関西・中部の3エリアで公演するようになりました。

その時のコンセプトは、「小学生だけで創り上げる極上のエンターテインメント」でしたが、昨年からストーリーと衣装、舞台装置を大きく変え、出演対象も、小学生から大学生までと幅を広げ、若者達の個性溢れる”等身大”の成長ストーリーへと変化しました。今年は博多も加わって、4エリア(関西・関東・中部・九州)で上演します。


―これまで長きにわたって「WORLD MUSIC」に携わられてきていますが、リハーサルやレッスンで心がけていることは?

大事にしていることは、個性をつぶさないこと。できる限り、メンバーの個性を尊重したいからなんです。

例えば、有名なミュージカルとなると役のイメージがすでに植え付けられていたり、固定概念が決まっていたりすることが多い。それもある意味ではいいことなんですけど。

「WORLD MUSIC」では、いろんなカイトやエルマーがいていい。キャラクターとして大切にしたい共通認識はありますが、それ以外は基本的にフリーで。自分自身が一番面白いとおもうことをやってください。と伝えています。押し付けてしまうと、どうしても萎縮してしまうので、のびのびとやって欲しいんです。


―YTJメンバーには、それをどんな風に伝えられているんですか?伝えたときのメンバーの印象も教えてください。

メンバーには「スタッフ側が考える役のイメージはあるけれど、100%正しいとは思っていません。皆それぞれが考えるキャラクターをみせて、意見を交換し合って、いちばん良いと思うものをつくっていこう」とちょうど昨日、キャストのリハーサルだったので、皆に伝えました。

練習しはじめは、顔も緊張していて全体の雰囲気も張りつめていましたが、スタートする前に「台本の中にト書き*はあるけれど、まずは自分が一番楽しくできるように、正解や間違いはないから自由に表現していいよ」と伝えると、皆「じゃあとにかく、やってみようかな!」とか「やっていいんだ!」といった空気に変わりましたね。

*ト書き…台本に書かれている、セリフ以外の上演するために必要な登場人物の動作や行動・心情などを指示した文章


―メンバーそれぞれの個性が発揮できるよう、声かけされているんですね。これまで印象に残っているメンバーの出来事はありますか?

昨年の関東公演での出来事なのですが、一幕の終わりにアイラのウィッグが取れてしまったんです。私は顔面蒼白で、観客の方も、あちゃ~といった感じで、その場の雰囲気に緊張が走ったのですが、最後アイラは「なかなか、いい勝負だったわね」とセリフをいうんですけど、そのセリフをいう前に「多少のアクシデントはあったけど・・・」とアドリブを入れたんです!しかも、それを自信を持った感じで言ったんですよ!誰もがどうしようと、シーンとするような空気のなかで、笑いに変えたんですよ。

「これをやったら怒られるんじゃないか」とかは一切なく、むしろ「やってもいいんだ!」というのが、皆のベースにあり、アクシデントもバネにして、笑いに変えた、そのメンバーの度胸が素晴らしかった。本当に、尊敬しています。


舞台上でメンバーの個性が発揮できるなんて、すごい!押しつけず対等に接し、メンバーを尊重しているからこそ、「WORLD MUSIC」が成り立っているんですね。

「WORLD MUSIC」の作品を通じて、心から優しい人になってほしいんです。

スポーツでは勝敗や点数がついたり、学校のテスト結果で順位がついたりしますが、ミュージカルに勝ち負けはありません。「WORLD MUSIC」は、各国それぞれがひとつのチームになって、異文化音楽でダンスをしますが、どれも簡単なことではないんです。

例えば、ハワイ。シンプルな動きなんですが、実はとても難しいので、チームのなかで自分だけが上手く踊れるようになったらいいというのではなくて。「ここ、一緒にやろうよ!」「わからないところある?」「もう一回やってみよう!」と声をかけあえるような仲間を育てたい。

これは、スタッフにもいえること。スタッフが「振付はこうやって!」と押しつけるのではなく、一緒にその国の文化や歴史なども学びながら、メンバーのいちパートナーとなって創りあげたいんです。

メンバーにとってYTJは自身が大好きなダンスや歌で表現できる場所。それを決して一人の力ではなく、仲間と創り上げる楽しさを知って、一生の財産にしてほしいなと。


―そのようなチーム作りや役作りなど明確な答えがないことをメンバーへはどのように伝えて、プロジェクトで共有していますか?

スタッフのフォローや雰囲気づくりだけでなく、メンバー同士の声かけや励ましなど、どちらも大切だと思っていて。

スタッフ側としては、各エリアのスタッフを集めてプロジェクトチームを組んでいるのでプロジェクトメンバーが思っていること、スタジオスタッフの意見を共有して、率直に話し合います。「こういうようなアドバイスもらったんですけど、どうですか?」「この価値観合っていますか?」などの質問がくるので、決められた会議の時間はもちろんですが、必ず時間を作って話して、そこで皆の目線を統一するように。パソコン上でのやりとりだけでなく、みんなそれぞれに意見を言い合って、価値観を共有しています。

メンバーには「クラス全体で一つの目標設定をして、決めた目標を全員で達成するためにはどうすればいいかを考えて動いてみよう。個人で達成するのではなく、全員で達成する為には、、、」とくどいくらい全員で達成する重要性を伝えます

あとは、この瞬間に感謝ができる人になってほしい。昨年、コロナの影響で関東公演は、延期という苦渋の決断をしました。今まで当たり前のように、メンバーと顔を合わせレッスンをし本番を迎えていましたが、まさか公演ができなくなる日が来るなんて、夢にも思っていませんでした。
当たり前の事は一つもなく、YTJに通えていることも両親に感謝ですし、今回もまた、WORLD MUSICが上演できることも、会社に感謝。応援してくれている人にも感謝。みんなに感謝だね!と伝えています。


―実際にキャストオーディションで、メンバーとどのような話をされますか?

オーディションをする前に「あくまでも役が持つ個性に合う子を選びます。ダンスや歌のスキルだけではないので、オーディションの結果で一喜一憂しないでね」と伝えていますが、役に選ばれなかったメンバーで「何がダメだったんですか?」と熱心に、直接聞きに来てくれることがあります。

その時は「何かやり残したことや後悔はない?全力をだしきれた?」とまずは、聞くようにはしていますね。すると「もう少し、工夫できたところがあります」と言ったり、「自分としては精一杯やった」と答えるメンバーも。

メンバーの返答に応じて、返す言葉や内容は異なってきますが、「これ(結果)が全てではない」ということは伝えます。メインキャストが偉いとかそれ以外が偉くないとかそういう訳ではなく、一人一人が輝いていないと『WORLD MUSIC』は成立しないから、ここで諦めずに、一緒に頑張ろう」と声をかけますね。


―「WORLD MUSIC」を通して、YTJメンバーにはどんな人に成長してほしい?

先ほどもいいましたが、優しい人になってほしい。抽象的かもしれませんが(笑)
世界は広いので、いろんな人に出会って、文化に触れることができる。そんなとき「こうじゃなきゃ、ダメ!」といった型にはまることなく「そういう考えもあるんだ!」と受け入れてみて、人生を楽しんで欲しいかな。

あとは、小学生の時にしかできないような純粋で、素直なパフォーマンスがみれるのが「WORLD MUSIC」。

中学生や高校生になってくると思春期で、どうしても多感な時期になるので。自分なりに表現したいことがあっても、周りの顔をうかがってしまったり、失敗しないかを気にしてしまうと思います。私も思春期の時はそうでした。でも、そういう時期も必要だと思うので、それはそれで良いんです!

「WORLD MUSIC」では、失敗を恐れないで。メンバーには作品を作りながら、いろんなことにどんどん挑戦して、どんどん失敗し、また挑戦してほしい!


―「WORLD MUSIC」を観劇する、保護者(大人)に伝えたいメッセージをお願いします。

もしお子さんが「WORLD MUSIC」に出演しているメンバーであれば、やはり「メンバーのことを信じてあげてほしい」ですかね。

「WORLD MUSIC」のキャラクターを通して、保護者の方に伝えたいメッセージが込められています。例えばもしお子さんがメインキャストであれば「もうちょっと練習しなくていいの?」とか「大丈夫?」など考えてしまう。きっと保護者の方のほうが、不安なんだとは思いますが、最後はメンバーを信じて見守っていてほしい。

あとは普段の生活で忙しすぎて「大事なものって何だろう」と向き合う時間がないですし、年を重ねれば重ねるほどそう考える機会も少なくなりますよね。そういったことを「WORLD MUSIC」を通して、ふと立ち止まって再確認してもらいたいです。


―「WORLD MUSIC」プロジェクトの今後の展望は?

いろんな方々に観ていただきたいので、商業ミュージカルとして毎週末公演したいですね。それに日本だけではなく、海外にも発信していけるような、ミュージカルにしていけたら。

そのプロジェクトの第一弾として、10月に福岡銀行さんとコラボし、市民ミュージカルを開催させてもらえる事になりました!これまではYTJメンバーだけでつくる「WORLD MUSIC」でしたが、福岡県在住の方たちと一緒に公演をします。

これが第一歩として、もっとたくさんの方が参加して「WORLD MUSIC」を大きくしていけたら。これからも、ぜひ楽しみにしていただけたら嬉しいです。

「WORLD MUSIC」だけでなく、メンバーとのエピソードやYTJに対する想いを語ってくださった豊田さんは、丁寧に言葉を選びながら穏やかに話してくださった姿が印象的でした。これからの「WORLD MUSIC」プロジェクトが益々楽しみです!豊田さん、ありがとうございました。