スタッフインタビュー

Teenagerが思い切り輝ける!"主体性"を引き出すチームづくり

2018年から上演し、中学生が出演するミュージカル「ALICE IN Wonderland」。 ALICEプロジェクトのレッスン、リーダーシップ教育、今後についてプロジェクトリーダーの榊沙織さんにお話を伺いました。


ーまずは、かんたんなプロフィールを。

高校の時からダンスを始め、ジャズやコンテンポラリーなどをやっていました。母親が英語教育に携わる仕事をしていたこともあり、幼少期から英語にふれる機会が多くあったので、学生時代にニューヨークへ2回、ダンス留学に行きました。

ミュージカルやダンス、演劇、英語を仕事にしていきたいな、とふと思っていたんです。 小学校や中学校の時には、ヤングアメリカンズのワークショップにも参加した経験もあって、日本の学校教育にはなかなかない側面、つまり”エンターテインメントを通じて、子どもたちの成長にたずさわる”ことを体感して。この経験があったので、エンターテインメントと教育の親和性がとても高いと感じていた部分もありました。

就職活動時にも「そういう仕事がしたい!」と探してはいたんですが、日本には絶対ないだろうと思っていました。YTJとはそんな時に出会いましたね、本当に、偶然。初めはアルバイトで勤務して、その後フルタイムとして入社しました。


ーYTJでもエンターテインメントと教育のつながりを大切にしていますが、具体的にどのような経験をされたんですか?

ヤングアメリカンズでは、アメリカなどで活動している若者たちが世界中をツアーで回りながら、その国々と子どもたちとエンターテインメントを通じて3日間交流するプログラムを行います。そこで印象に残っているのは、コンテンツのひとつに「自分の好きな歌を、みんなの前で歌ってみよう!」というのがあったんですね。ソロパートを振り分けるためのオープンオーディションの意味合いもあったんですけど、子どもたちには一切言わずにやるんです。

そういうのが得意な子もいれば、恥ずかしがって歌えない子もいます。ヤングアメリカンズに所属している若者たちは、前に出れない、歌えない子たちに寄り添っていた印象があって。傍に立って「絶対大丈夫だよ、やってみようよ」と声をかけていました。泣いて歌えなくなっても、焦ったりとかせかしたりせずにその子が落ち着くまで待って、一緒に歌ったりとか。”結果ではないところに寄り添っている”みたいな感覚を鮮明に覚えていて。

日本の学校のなかにいるとできなければダメだし、間違っていることをしたら怒られる、注意されるが主流だったなかで「どういうかたちであっても、自分を表現するのは自由。人それぞれのペースがあっていい」ということを行動で教えてくれたので、すごく記憶に残っています。


ーまさにYTJでの活動に通じるものがありますね!YTJに入社してからの仕事内容は?

入社してからは、いろんなスタジオでスタジオマネージャーとして勤務していましたね。主に関東エリアでしたが、関西にも1年半くらいいました。スタジオマネージャー、エリアマネージャーを経て、現在関東エリアの統括マネージャーをしながら、『ALICE IN Wonderland』プロジェクトのプロジェクトリーダーを担当しています。


ーでは、ALICE IN Wonderlandプロジェクトでの業務内容は?

プロジェクトマネージャーとして携わったのは、2019年から。主にプロジェクトの進行管理をメインに進めながら、作品の演出や、振付も一部やらせていただいています。 2019年のときはゼロからつくる作業が多かったので、特に制作のために時間を費やしましたが、いまはベースが整っている状態なので主にプロジェクト全体の進行や運営をすることに主に携わっています。


ーALICE IN Wonderlandの作品における、コンセプトを教えてください!

大きく2つありますが、ひとつは出演者である中学生が、等身大で自己表現をして楽しむことができるミュージカルであること。

これまでのYTJのミュージカルは、全員で「WORLD MUSIC」や「Joseph」をやっていて、小学校低学年から中学生、高校生も集まって、ひとつの作品を作るときが多かったんですね。そうなってくると中学生は、学年の間にはさまれ、フォローにまわる機会が多くて。皆がやりがいを感じられるような環境ではなかったので、中学生が中心となるミュージカルをつくりたかった。

もうひとつは、オールスターの群集劇をつくりたかった。「ALICE IN Wonderland」の作品自体が、出演者全員が主役になれる世界観なので、それを主軸にした作品にしたかったからですね。


ー作品のストーリーは?

ストーリー展開としては、ある作品を書いているキャラクターのDODO(以下、ドードー)の世界、劇中の世界である「ALICE IN Wonderland」、2つの軸があるかたちで物語が進んでいきます。

ALICE(以下、アリス)は不思議な国の世界に迷い込んでしまうのですが、初めは戸惑い家に帰りたがっていました。ワンダーランドの住人たちに、森の奥へ案内されていくにつれて、ワンダーランドの世界をもっと楽しんでみようという気持ちに変わっていくんですね。 そんな時THE QUEEN OF HEARTS(以下、女王陛下)と出会うのですが、アリスのある一言で、女王陛下を傷つけてしまいます。

アリスは、ワンダーランドの住人たちと出会うことで成長し、ドードーも「ALICE IN Wonderland」での出会いを通じて、伝えたかった想いをかたちにできるストーリーです。


ー一般的に認知されている「不思議の国のアリス」と、YTJの「ALICE IN Wonderland」の違いはありますか?

大事にしていることは、個性をつぶさないこと。できる限り、メンバーの個性を尊重したいからなんです。

日本でよく知られているストーリーと基本的には同じですが、YTJのメッセージとしては「アリスは周りにあわせなきゃいけない、ではなく、アリスはそのままでいい」というところを大切にしています。アリスが成長していく部分を作品の構成として深めているので、キャラクター設定に少し手を加えている部分かなと。

例えば、現実世界では周りに友達がいないような、空想の世界が好きな、ちょっと変わった女の子としてみられているアリスがワンダーランドの世界にいくと、個性豊かなワンダーランドの住人たちがアリスに対して「あなたはあなたのままでいい、この世にたったひとつしかない宝物なんだよ」と伝えていったりする部分ですね。


ーYTJがこれまで上演してきた「ALICE IN Wonderland」について、また新しく取り組んでいることは?

2018年の夏に関東、中部、関西エリアで初演を迎え、そこから毎年夏に上演しています。2020年の春には1~2週間ほどのロングラン公演を関東と関西で予定していたんですが、コロナでなくなってしまいました。

その時初めて経験したのが、マスク生活で社会とのコミュニケーションを絶たれてしまったYTJメンバーたちが、戻ってきたときに笑顔がなくなり、人との距離感に戸惑い、落ち込んでいたこと。プロジェクトとしては、メンバーたちにとって生きる目標を作ろうということになり、クラウドファンディングを立ち上げ、海外公演をするための資金を集めるプロジェクトを行ったんです。

現在もコロナの影響で、海外公演も見送りになっているんですが、来年の夏には海外公演も含めて実施できるように動いています。


ー舞台セットが、360度見渡せるようなつくりになっていますが、演出などのこだわりは?

空間の演出には、かなり力をいれています。お客様が観劇したときに舞台全体がなるべく立体的に動いていくような感覚を持っていただけるようにキャストの配置、ポジショニング、アンサンブルの動きは工夫をしています。

舞台のセットを360度みえる作りにした経緯は「ALICE IN Wonderland」の作品のなかに入り込んだような、没入感を味わってもらいたいから。お客様もストーリーにはいれることで、観劇したあとに共感できるような作品にしたかったというのがあります。

お客様がかやの外にならず、作品の世界に本当にいるかのような状態にもっていけるのが理想。ステージをむすぶ通路では、キャストやアンサンブルがダイレクトにお客様とコミュニケーションをとりにいくことをするので、そのレッスンもおこないますね。

ーお客様とコミュニケーションをとるために、メンバーとはどのようなレッスンをしますか?

目の前にいるお客様へのコミュニケーションは、直接目を合わせながら演じたりするんです。「あなたにだけに、はなしてますよ!」というくらいにダイレクトに話しかけにいくことがあったりしますが、決して話しかけに行く場面を作りこんでいるわけではないので、お客様は何度見ても新鮮な感覚になって観ていただけるかなと。

そのためにメンバーへは、配役されたキャラクターの研究をまずおこなってもらいますね。どういう表現やお客様へのアプローチが最適かということを考える時間を多く設け、メンバーが独自に考えて、実践してもらっています。

レッスン内でスタッフは口頭や参考となる映像を使うなどして、メンバーとキャラクターのイメージの擦り合わせや共有はしますが、その後はメンバーたちでどんどんクリエイトして、アイデアを広げていく作業に集中してもらっている感じです。


ー中学生はとても多感な時期だと思いますが、レッスンやリハーサルでメンバーに接する際、心がけていることは?

メンバーひとりひとりのかたちに沿って動くというのを、心がけていますね。
中学生となると、自分たちからアイデアを提案して動く、という姿勢は根付いているんですが。メンバーたちが、納得して動けるかが重要だと思っていて。

スタッフ側がたとえやってほしいこと、やるべきことを伝えたとしても、それに対して納得や共感が得られなければ、やらされている感覚になってしまうと思うんですが、そうしたくないんです。

今年アリスに配役されているメンバーはおそらく9人いるんですが、9人それぞれ元々の性格も、魅力となる部分も全然違うんですよ。その違う部分をひとつのイメージ像に寄せていったり合わせたりするのではなくて、それぞれの良さを引き出すことをします。

もしメンバーたちが表現したいことがあったとしても、それを引き出す方法が分からない場合は、スタッフとしては引き出すきっかけを与えてあげたり、サポートする役割に徹したいと思っています。

配役されたキャラクターの表現をどうしたらいいか思いつかなかったり、迷ったりしているときは、分からない部分を具体化することをしますね。話をきいていくと「このシーンの、〇〇のセリフに共感できない」など悩んでいる原因が見つかったりするので、一緒にその作業を行います。


ー作品づくりのなかで悩みや壁が立ちはだかったメンバーが成長した!と感じたことはありますか?

想定していた配役になれず、悩み、戸惑うメンバーを沢山みてきました。 今回参加しているプロメンバーのなかにも、それを経験した子もいますが、どの役になったとしても、自分にできることを楽しんでやっていきたいといってくれています。想像もしなかった自分をみつけられるのがALICEプロジェクトの醍醐味というのを理解しているんだと思います。

「私(僕)だったら、このキャラクター!」という固定概念があったり、強い希望があるからこそ、違う配役に決まった時に驚いて、どうやって表現すればいいか分からないと戸惑ってしまうんですけど。プロメンバー自身が、新しい表現をみつけることができた体験をしたことで、今回のプロジェクトでは役に対して迷いがあるメンバーに、積極的に動いていたんです。「どんな役になっても、みんなが主役のミュージカルだから、思い切ってやってみようよ!楽しいよ!」と声かけしていたり。

プロジェクトが始まった頃は、スタッフが言葉や行動でメンバーに伝えていたことが、いまはメンバー間でALICEプロジェクトの良さやカルチャーを繋いでいっている感じがあって、これからも大事にしていきたいことだなと感じます。


ーそのなかでも具体的なエピソードがあれば、教えてください。

アリス志望だったのですがPANSY(以下、パンジー)に配役された、あるメンバーがいました。それぞれのキャラクターのイメージも、その子の表現スタイルとも全くちがっていたので、どうしたらいいのか分からない感じになっていて。

パンジーはかなり可愛らしく、振り切ったようなイメージなので、初めはそれを演じることに抵抗があり、恥ずかしがっていたんですよ。それを見て、過去にパンジーを演じてくれたメンバーの映像や他の映像作品を「よければ、参考にしてみてね」とアイデアを渡したりしました。すると「あれ?意外と演じてみて、楽しいかも!」という気持ちに変わっていってくれたんです。本番のときには、メンバーもスタッフも納得いくようなパフォーマンスを創り上げてくれて。

さらに面白いなとおもってのは、そのメンバーが、他のプロジェクトでもパンジーで演じた”振り切った可愛らしさ”を取り入れた表現を作品づくりに取り入れていて。それが良かったんですよね、とても印象に残っています。


ーメンバーにとってALICEプロジェクトが、成長できるキッカケになったんですね。1つの作品を成功させるプロセスのなかで、メンバーやスタッフとのチーム作りで大切にしていることはありますか?

オーナーシップを握ることが大切だと思っています、メンバーやスタッフにしても。主体的に動けるかどうかに一番重きを置いているんです。スタッフの強みが発揮されるかどうかを考えて「ここ、任せてみよう!」といって、仕事を割り振りをしたり。メンバーに対しても同じ。メンバーはただ出演するだけではなくコミュニティに参加して、主体性を引き出すようにしています。

プロジェクトに参加している感覚をリアルに体感できるように、広報宣伝活動の一環で、映像に出演したり、各スタジオのレッスンにまわったり。


ーオーナーシップと近い部分があるかとおもいますが、ALICEプロジェクト内でリーダーシップ教育はどのように捉えていますか?

確かにオーナーシップと近しい部分もありますが、ALICEで体現していきたい新たなリーダーシップ像は、先陣を切ってお手本となる行動することではなく、周囲の人たちが主役になるような立ち回りをすることだと思っています。今回のプロジェクト内でも、カンパニーのメッセージとして何度も発信していましたね。

例えばアンサンブルリーダーに配役された場合、その役目は他のアンサンブルメンバーたちを作品のなかでどうやって活かしていくことができるかを考えることなんです。リーダーとして配役された自分自身をいかにいきいきとして魅せるかではない。

どうしてかというと「与えられた土俵でまず花を咲かせることに全力を尽くす」のが、社会にでてからも必要だと思っていて。特にエンターテインメントの世界で「この役しかできません」「この作品しかでません」というよりも、カンパニーのなかで「与えられた役割や立ち回りに、全力を尽くします!」と言ってくれる存在が重宝されます。

そういったスタンスでいれば信頼も多く集まりますし、新しいことに挑戦したくなった時には、その信頼や人望で手を差し伸べて応援してくれる環境が出来上がるかもしれません。


ー「メンバーが、いいリーダーシップを発揮するようになった!」と感じた出来事はありますか?

FLOWER(以下、フラワー)というアンサンブルが出演するシーンでの話なんですが、女王陛下を傷つけて落ち込んでいるアリスを、フラワーが励ます場面があって。その声をかけるセリフと演出は、毎年フラワーたちにアイデアをもらっているんです。

「決められたカウント内で考えてみてー!」と伝えると、これまではだいたいアンサンブルリーダーがマイクを持って場面を繋ぐことが多かったんですが、今年は全アンサンブルメンバーがセリフを発する演出になっていて。ひとりだけセリフを言っていたのが、皆でつくりあげているシーンに生まれ変わって、すごく素敵だなと。

先ほど話したリーダーシップについてのメッセージをメンバーが覚えてくれていたかはわからないですが、アンサンブルメンバーもとてもいきいきとしていて!このシーンを観ていると、とても胸打たれるんですけど。メンバーがその瞬間にリーダーシップをもって、楽しく動いている環境がみえるのって、いいなと感じています。

アンサンブルも自分のセリフがあるように、チームの全員が主役になる瞬間をつくってくれたと思っているので、今回のようなアンサンブルリーダーの動き方、リーダーシップのとりかたがもっともっと増えていくと嬉しいです。


ー素晴らしいリーダーシップが発揮されたシーンを観るのが楽しみです。貴重な青春時間をすごすために、作品を通して、何を学んで大切にしてほしいですか?

いまお話したリーダーシップは、学んでほしいことのひとつかな。いまから社会にでていくなかで、環境に応じてリーダー、フォロー、もしくは全体を俯瞰する立場になることがあるかもしれない。仕事でもプライベートでも自身の立ち位置を考える機会がいっぱいでてくると思うんですけど。

そんな時、たとえ中心人物にならなくても、それは個人を否定するようなネガティブな意味合いではないように受け取ってほしいですね。もしそうした環境におかれたときにふるまいや声かけひとつで、周囲の人のマインドも明るく前向きなものにするのは大事だと思っています。

例えば舞台づくりの話でいうと、演者だけでは何もできない。ホールのオーナーがいて、音響、照明、運営スタッフがいて成り立つ。全員で”ONE TEAM”なので、チームのどこかのピースが欠けても成功しないわけで。お互いに敬意を持って、1つのものを創り上げるチームが最終的に成功していくと思うんですよね。その体験を、ALICEプロジェクトを通して、学んでいってもらいたいなと。


ープロジェクト活動は社会にでたときにも役に立つ経験ですよね。今後、メンバーに期待していることはありますか?

どんなポジションであったとしても、最大限のパワーを発揮できるような人に育ってもらいたいです。そのためには、全体を客観視する力が必要ですね。自分のことばかり考えると、どうしても視野が狭くなってしまいます。その時は一歩ひいてみると俯瞰できるので、悩んでいたことがちっぽけにみえたり、問題の本質に気づけるようになると思うので、そういう力を養ってもらえたら。


ーALICEプロジェクトの今後の展望は?

まずは中学生の3年間は、あっという間。その一瞬のなかで、学校の授業が長期間ない、夏休みをYTJのALICEプロジェクトに捧げるのは勇気のいることだと感じています。メンバーが人生をかけてくれている貴重な時間だからこそ、やっぱりその想いに応えたい。最高な経験をもって人生を豊かにしてもらいたいので、成長期の体験のひとつとして、なにか大きな夢とか目標を達成することは必要。

そのなかで、海外公演とロングラン公演の実施に重きをおいていきたいと思っています。直近でいくと、来年の夏に海外公演の開催についてはダイレクトに視野にいれていますね。


ー最後に「ALICE IN Wonderland」を観劇する方、保護者へのメッセージをお願いします!

中学生が創り上げて、作品自体も独特な世界観になっているからこそ、細部までこだわっているところがいっぱいあって。キャラクター同士の絡みを楽しめたり、ふとした瞬間のしぐさに共感したりと、気づきが無限に出来るのが「ALICE IN Wonderland」の特徴です。

ぜひ劇場に何度も足を運んでいただいて、いろんな角度や見方で作品を観てもらうと、毎回新鮮な気持ちで楽しめるので、末永く応援してもらえたら嬉しいです。


インタビュー中ずっと笑顔で、はつらつとお話してくださった榊さん。みなぎるパワーを原動力に、これからもメンバーと一緒にALICEプロジェクトを盛り上げる姿をみるのが楽しみです。メンバーとの素敵なエピソードをきかせてくださり、ありがとうございました。