国際的な高等教育機関との産学連携オンラインプログラムの一環として、国内にいながら海外のプロ講師による振付やダンスをオールイングリッシュの授業で学べる「e-Theatreオンライン留学」が10月より開始。そのリーダーとして、グローバル・ネットワークプロジェクトマネージャーを務めるジョアンさんに話を伺いました。
ーまずは簡単な自己紹介から。
フランス出身のジョアン・ラスボです。19歳で舞台芸術を学ぶ大学でダンスと通訳を専攻し、そこでダンス、演技、即興、振付作品の書き方や作り方について学びました。
その後プロダンサー、通訳、振付師、ダンス講師として働き、日本に来る前はダンスの競技会にも参加したりしていました。
ーどうしてダンスを学ぼうと思ったんですか?
16歳の時南仏にある街、ビアリッツ(Biarritz)で行われた「Le temps d'Aimer La Danse」というダンスフェスティバルをみて、ダンサーを志しました。街全体を使ったイベントで、いたるところにダンサーたちがいるんです!色々な種類のダンスを鑑賞しましたが、すぐにヒップホップダンスの虜になってしまって。若いダンサーが自信に満ち溢れていて、とても楽しそうに踊っていて、その自由さに惹かれました。当時の私は本当にシャイだったので、このヒップホップダンスが自信を与えてくれたような気がします。
その後レボリューション(Compagnie Rêvolution)という会社が運営する、演劇専攻の大学に合格し、2年間ダンスについて学びました。レボリューションはヒップホップ、コンテンポラリーのダンスカンパニーで、クラシックダンスとブレイクダンスをミックスした「アーバンバレエ」という作品が有名です。
日本とフランスでは、ダンスを学ぶ環境や職業としてのダンサーは、少し違いますね。フランスでいう”ダンスカンパニー”は、私が入学した大学のように、学校を運営していたり。ダンスカンパニーは主にバレエからヒップホップまであらゆるジャンルのダンスができる人たちで構成されていて、世界中で公演ツアーを行います。
ーフランスでダンサーとして活動していて、なぜ日本に来る選択を?
ダンスバトルに参加していた頃に、日本のあるチームの踊りを観たんです。関西にあるチームで「MORTAL COMBAT」だったかな。特に足の動きが速く、動きが細かいところまで作りこまれていて、ヨーロッパでよくみるダンスとなにもかも違って!
ヨーロッパのダンスは、テクニックよりも、自分の”感情”を大事にして、思いのまま表現する。日本は一つの動きをするために事前に何時間も考えるので、フランスのダンスとは違って、魅了されました。これまでも「いつかは海外に住んでみたい」となんとなく思っていたのですが、そのダンスをみてから「日本に行きたい!」と心に決めたんです。
色々な国のパフォーマンスを観たり、影響を受けることは、アーティストとしてさらに成長するために必要です。私自身も”学ぶこと”に終わりはありません。
今でもレッスンに入ることがありますが、毎日が勉強の連続!YTJメンバーからたくさんのことを学んでいます。自分のダンスに満足してしまったら、そこで成長がとまる気がして。
ー常に学ぶ姿勢でいること、素晴らしいですね!YTJでは、どんな仕事をされているんですか?
まず日本に1年住んでみて、もっと日本にいたい、働きたいと思っていた時に、友人を介してYTJのことを知り、働き始めました。YTJで初めの約2年はスタジオスタッフとして働いて、その後オンライン事業部に異動し、e-Theatre関連の仕事をしていましたね。
今年に入ってからは、グローバル・ネットワークプロジェクトマネージャーを担当していて、主に海外の教育機関、舞台芸術の学校、アーティストとのつながりを作り、メンバーへの短期間のレッスンを提供するための業務を行っています。
レッスンの始まりでは、YTJメンバーに「将来何になりたいですか?」と聞くんですが「プロになりたい」「ダンサーになりたい」「海外に行きたい」というメンバーが多いんです。
フランス人なので料理にたとえることが好きなのですが(笑)、ダンスと料理は似ているところがあると思うんです。美味しい料理をつくるためには、色々な国の調味料や技術を取り入れると、新たな発見もあってさらに美味しい料理に繋がりますよね。ダンスもそれと同じ。YTJメンバーも海外のレッスンをうけ新たなダンスや表現にとりいれて、さらに自分のダンスに磨きをかけていってほしい。
グローバル・ネットワークプロジェクトにも繋がる話になりますが、メンバーにとって、今回のオンライン留学は貴重ないい機会だと考えています。
ーグローバル・ネットワークプロジェクトが生まれた経緯は?
グローバル・ネットワークプロジェクトはコロナと、同じ時期に始まりました。当時はレッスンができず、YTJのメンバーに申し訳ない気持ちでいっぱいで……。
たとえコロナ禍であっても、メンバーへはコンテンツを提供することが私たちの課題でしたね。ただそれだけではなく、YTJやメンバーにとって、より成長するためのサービスになればと考えています。
家にいるとコンテンツやゲームなどエンターテインメントをすることもあると思いますが、YouTubeのようなプラットフォームの形式にすると何でもありになってしまうので、質の高いコンテンツだけが一箇所に集まっているのが理想的じゃないか、と。そこで、オンライン事業部で立ち上げたのが「e-Theatre」です。
ーそのような経緯で「e-Theatre」が誕生したとは!グローバル・ネットワークプロジェクト内でどんな仕事をしていますか?
「e-Theatre」内でいまや数々の動画やレッスンビューなどが配信されていますが、そのなかにある「World Theatre Online Lesson」が私の担当でした。
「どうすれば海外のアーティストと、メンバーが交流できるのか」と、私たちがすでに行っていたオンライン講座に加えて、メンバーが海外ダンサーからのレッスンで新たな表現を学べるようなプラスアルファがあってもいいんじゃないかと考えたんです。
その発端は、YTJの理念のひとつである「多様性(Diversity)」を実際のプロジェクトに発展させたかったから。プロダンサーとして活動してきた経歴を活かし、普段なかなか会う機会のない世界的に有名なアーティストからアドバイスやレッスンを受ける機会を提供したいと考え、ブロードウェイやウェストエンドのアーティストにコンタクトを取りました。
ー今回プロジェクトで実施する「e-Theatreオンライン留学」のコンセプトは?
YTJにはさまざまな目標を持ったメンバーがいますが、将来海外でプロのパフォーマーになりたいと考えている人が沢山います。そこで、私たちはグローバル・ネットワークプロジェクトでオンライン留学を作りました。
世界で活躍するパフォーマーになるため、海外のダンサー、教育機関から学ぶことができる、これが最大のコンセプトです。メリットにも繋がりますが、海外留学はしたくても金銭面やどんな学校かわからないという不安、渡航前に少しでも学校の雰囲気やレッスンをみれると安心ですよね。
私も若い頃、ダンスを学ぶための大学を選ぶ時これらの学校にオーディションを受けに行く機会がありましたが、他の都市や国に行くとなると、それは簡単なことではなくて。その当時、オンライン留学のようなプログラムがあればよかったのに……と心から思っています。
フランスには「Portes ouvertes(直訳:開かれた扉)」と呼ばれるものがあるんですが、大学に入学する前に、色々な大学を訪問することができます。YTJのグローバル・ネットワークプロジェクトは、そのイメージにとても近くて。このプロジェクトが、YTJメンバーと世界を繋ぐ架け橋になればと考えています。
あとは、YTJメンバーたちに、様々な国や人と接する機会を提供したかったんです。先ほどアーティストとしていろんな国を観ることは大切といいましたが、人としても重要なことですよね。海外の人とのいろんな経験を通じて、メンバー自身が視野を広げてみて、成長してほしいな。
ー国際的に活躍するメンバーに成長することを大事にしているYTJならではですよね。
「e-Theatreオンライン留学」の提携校はどんな学校?
オンラインプログラムを通じて、舞台芸術の分野で優れた教育機関や大学とYTJメンバーが繋がれるレッスンや機会を提供しています。
今回の提携校はスコットランド王立音楽院、インターナショナル・カレッジ・オブ・ミュージカル・シアター(以下、ICMT)、Academie Internationale de Comedie Musicale(以下、aicom)の3校です。それぞれ参加対象クラスが決まっていますが、どの学校でもレッスンスケジュールのなかで講師による振付を行い、プログラム終了後には最終課題振付を撮影する「成果撮影会」を設けます。この映像はe-Theatreでご覧いただけるよう公開する予定です。
スコットランド王立音楽院は、175年の歴史を持ち、2022年世界大学ランキング舞台芸術教育部門で第5位にランクインしている学校です。ICMTは、ロンドンを始めヨーロッパやアメリカに校舎を持つ有名な教育機関です。世界レベルのミュージカルシアタートレーニングを提供しています。プログラムの全日程に参加すれば、この2校からは将来的にオーディションや就職活動で経歴証明としても利用できる、Certificate(修了証)の授与もあります。今後プロのダンサーやパフォーマーとして活躍、オーディションにも挑戦しミュージカルに出たいと考えている方には、活動やスキルの証明になるのでぜひ参加してほしいですね。
aicomは、フランスにおけるミュージカル・シアターのリファレンス・スクールで、今回はパリ校が参加します。歌やダンス、演劇のほかにミュージカル コメディを組み合わせたフランスで初めて舞台芸術に特化した学校です。
どの学校も有名ミュージカルに出演している卒業生を多数輩出しているので、きっと皆さんの今後のキャリア形成に役立つと思います。
ー数ある教育機関や学校があるなか、どうしてこれらの3校を選んだ?
色々と調べてみたのですが、第1回目の今回はヨーロッパを選びました。
スコットランド王立音楽院は世界的にみても、とても有名な学校ですし、かつての生徒の中には、今やブロードウェイや映画で大活躍している人もいて。そんな歴史ある学校がこのプログラムを一緒にしていただけたら……と願っていましたが、引き受けてくださったことはとてもラッキーなことです。
ロンドンにあるICMTは、ウェストエンドやブロードウェイで活躍するプロから、世界レベルのミュージカル演劇のトレーニングを受けることができますし、aicomは、ヨーロッパ最大のミュージカル専用キャンパスで、多くの卒業生がテレビ界で活躍しているのが世界で知られているので選ばせていただきました。
ージョアンさんが考える「e-Theatreオンライン留学」の、一番の魅力は?
大きくはやはり、国内にいながら、海外の著名な高等教育機関の提供するオンラインプログラムに参加できること。海外留学したくても金銭面や学校の雰囲気が分からず不安もあると思いますが、オンライン留学に参加することで事前に海外のレッスンがどういったものかを知ることが出来ます。
例えば日本でも、実際に大学に入学する前に「オープンキャンパス」に行ったりしますよね。通常は国内の大学にしか足を運ぶことができないけれど、海外の教育機関にも、同じようにオンラインで訪問体験ができたらいいなと。
海外留学もしくは海外でキャリアを積むことを目標にしているメンバーにとっては、実際の現地の様子をみれて、具体的なフィードバックや改善点がみえてくるかもしれませんし、これらの教育機関から、YTJメンバーが一目置かれる存在になるなど、沢山の可能性があります。
ー日本にいながら、留学ができるなんてなかなか出来ない体験ですよね。具体的にどのようなレッスンになる予定ですか?
オールイングリッシュの授業にはなりますが、必要な場面に応じてYTJスタッフも通訳に入ります。YTJのスタジオなどで仲間やスタッフと学べるので安心です。同時通訳になるので、先生の言ったことが理解できなくても、分からなければスタッフが日本語で伝えるので英語の勉強にもなります。
冒頭はYTJスタッフとの時間もありますが、今回は提携校への留学となるため、コンテンツ制作や振付は基本的にそれぞれの提携校が行います。だからこそ、本当にヨーロッパの雰囲気というか、海外のレッスンを体験することができるので、これも魅力の一つかなと思います。ヨーロッパではレッスン自体がすごく柔軟で、生徒を観ながら調整することがあります。
ワークショップを通じて学べるスキルの一つとして、普段と違うスタッフ、振付に即興で対応することです。もし今後プロダンサーを目指すなら、異なる環境にあってもすぐにパフォーマンスができることは大切。
今回レッスンをおこなう講師の方々も、おそらくメンバーの様子をみながら臨機応変に振付内容を調整することもあるとおもいますし、ディスカッションも設けています。
きっとメンバーにとっても、オンライン留学を経験したことでメンバー自身の表現を豊かにし、さらに人として成長させてくれ、これからの人生に役に立つ機会になるはず。
ーフランスの教育は、早くから子どもに自主性を求める印象がありますよね?
そうですね。フランスでは子どもに対して、小学生ぐらいから早く自立するために、自分の意見をもつことや、しっかりと発言をするように言われることが多いかもしれません。実際に、高校を卒業してから一人暮らしをしてる人も多いです。
私も高校生のときから一人暮らしをしていました。学生なので金銭的な問題もありますが、フランスでは学費の無償化が進んでいることもあり、両親や国の援助を受けながら、アルバイトをして賄っていました。日頃から「自分の将来は自分で考えるように」と言われていたからかも。
これはフランス特有かもしれませんが、積極的に発言ができない人は「自分の考えがない人」と捉えられる傾向があります。他人と意見が食い違うことがあっても、それは衝突ではないんです!はたからみるとケンカしてるようにみえるかもしれないですけど(笑)
ーYTJメンバーの中には、なかなか自分の意見が言えない方もいるかもしれませんが、そういうメンバーとはどう接するのでしょうか?印象に残ってるメンバーはいますか?
たしかに、メンバーによってこちらの対応はかわりますね。もし恥ずかしがり屋なメンバーがいたら、まずはそのメンバーを”応援”するような気持ちで接します。
自発性や表現力を磨けるようにしていければとは考えているので、とにかく励まします。もちろん性格はメンバーはひとりひとり違うので、接し方は1つではありません。相手によってアプローチは変えるようにしています。
ある選抜メンバーで、恥ずかしがり屋だけれど、ダンスパフォーマンスを観たときにすごくいいなと思ったんです。内に秘めた可能性を感じるメンバーでしたね。
とにかく彼にはレッスンの中で「〇〇さん、これをやってみてください」と自己表現を促すような小さなタスクを与えていました。もちろんそれが出来たときには「すごい!上手!」と声をかけて、成功体験の機会を多く与えられるように意識していました。
もちろんただ褒めるだけではなく、時には厳しい声掛けをすることもあります。その積み重ねが彼に自信を与えたのか、結果的に「Japan Youth Dance Festival」のソロの部で入賞するほどまでに成長していました。今では、特別選抜メンバーとして活躍しています。
ーでは最後に。プロジェクトの今後の展望もふまえ、メンバーや保護者の方へ、メッセージをお願いします!
実際に、コロナ禍を経てe-Theatreサービスが開始し、今ではコンテンツもとても充実してきています。初めはVODのコンテンツだけでしたが、今後はこういった双方のコミュニケーションが可能なプログラムを増やしていきたいですね。
こういったオンライン留学としてのワークショップに参加することは、多くのメンバーにとって初めてのことだと思います。初めてのことを体験することは、人としてとても重要です。なぜなら初めてということは、まだ知らないことを学べる、勉強できるチャンス。
初めてのことってワクワクしませんか?初めて食べるもの、初めていく場所、初めての方と話すとき…これと同じで、緊張せず、ぜひチャレンジしてもらいたいです。
コロナだけでなく、転居など、物理的な距離の問題でYTJのスタジオに通えなくなってしまったメンバーもなかにはいて。そういうメンバーたちのために、今後もグローバル・ネットワークプロジェクト、ならびにe-Theatreをより発展させていきたいと考えています。
言葉の一つ一つが明るく、常にポジティブで積極的でいようとする心持ちがにじみ出ていたジョアンさん。オンライン留学のことだけでなく、ダンス、レッスンの話、フランスの文化まで、たくさんお話をきかせてくださり、ありがとうございました。